フィルム暗室関係での疑問やモヤモヤは試してみよう
♪ Breakout (by Swing Out Sister)
--- はてな?っと思ったら試してみよう
ここでは疑問やモヤモヤがあれば試してみようというページです。
ただ厳密に検証を行うようなことはせずに、大まかに傾向を追うだけにするつもりです。
ですので本当かな?っと思った時には、ぜひとも自ら試してみてくださいませ。
項目。
・モノクロ多諧調印画紙プリント時の露光色の疑問
・『飲料水で調色を』
【モノクロ多諧調印画紙プリント時の露光色の疑問】
そもそもは下記サイトを見たことがきっかけでした。
https://unblinkingeye.com/Articles/PPSS/ppss.html
(ホームページは https://unblinkingeye.com/)
内容は省略しますが、その中で多諧調印画紙プリント時に硬調な露光と軟調な露光を行っていて、その時に使う露光にライティング用
フィルタ(下図のようなもの)を通した光を使っているのですが、軟調に使用するのが緑色で硬調に使用するのが青色として
行っているのです。多諧調印画紙プリントをしていると、軟調に使用するのは黄色で硬調に使用するのはマジェンタ色が
あたり前だと思っていたので、本当なのかなぁ?っと思っていたのです。
それが先日、25年以上前の暗室関係の洋書本(※)を見ていると号数に対する引伸機各社のフィルタ値設定(カラー 引伸機での多諧調印画紙設定値)が記載されていて、その中のパターソンの引伸機がまさしく緑色と青色での表が載っていたのです。 B値やG値という設定ですので、たぶんこのパターソンの引伸機はCMY系(減法混色)ではなくRGB系(加法混色)で設定する機器だったよう なのです。その本ではパターソンの設定値は以下のようになっていて、わかりやすい色だけを抜き出してみると0号=緑色・2号=水色・ 5号=青色で対応しているようなのです(号数はイルフォードのフィルタに相当)。たぶん数値は低いほどその色が濃く露光されるもの だったのでしょう。
号数 | B値 | G値 |
---|---|---|
0号 | offB | 35G |
0.5号 | 180B | 35G |
1号 | 120B | 40G |
1.5号 | 85B | 45G |
2号 | 55B | 55G |
2.5号 | 30B | 65G |
3号 | 20B | 85G |
3.5号 | 15B | 120G |
4号 | 10B | 160G |
4.5号 | 05B | 210G |
5号 | 00B | offG |
(※) CREATIVE ELEMENTS / Darkroom Techniques for Landscape Photography / Eddie Ephraums (著)
緑色=黄色+水色で、青色=マジェンタ色+水色なので、そこはかとなく号数として利きそうな気は一応するの
ですが...水色ってどうなんでしょう?
これらの露光色で本当に号数に利くかどうかの疑問を抱えたままだとモヤモヤ感が続くので少しだけ試してみました。テストに使用する
のは、ライティング用フィルタではなくて手っ取り早い引伸機のカラーユニットと多諧調ユニットを使って比較することにしました。
テストで使用するイーゼルマスク上の露光色は以下のようになるわけです。(わかりやすいようにイーゼルマスクの羽根より大きく
露光しております)
多諧調ユニットの露光色 | テストしたい露光色 | |
---|---|---|
0号 | ||
2号 | ||
5号 |
なんかあらためて露光色を見ると、全く違っていて上手くいくのか不安になってきました。
っで早速比較プリントしてみた結果は、
なんとっ!(なんか古い表現)
ほぼ同じコントラストでプリントできたのです!
下記画像はプリント後印画紙を同条件にてスキャンしたもので、画像をクリックすると少し大きく別ウィンドウで表示されます。
0号比較結果 | |
2号比較結果 | |
5号比較結果 |
(ちなみに私のフィルムは軟調現像で行っていますので、標準現像でのフィルムより0号と2号の差は小さいかと
思います)
号数値は各社数値が異なっていて多少違いはあると思っていますが、できたプリントを見るとほぼ同じプリントなのです。露光時間は
もちろん異なりますが、まったく違う露光色なのになぜかほぼ同じコントラストで焼けるのにはビックリです。濃い色の緑色水色青色で
試したのですが、半分の濃さで試してみると青色(5号)は4号ぐらいに低下し、緑色(0号)と水色(2号)はあまり変化はありませんでした。
テストでは1種類のバライタ印画紙(Arista EDU Ultra)しか使用していませんので、他の印画紙ではどうなのかは皆様が試してみてください
ませ。
多少の効果はあると思っていたのですが、ほぼ遜色なく効果があるとは思いもよりませんでした。そもそも昔に
パターソンではRGB系(加法混色)の引伸機があったことに驚きました。時代を経ることで傍流が主流に集約されて、主流しか知らない者に
とっては、それだけがあたり前の常識だと思い込まされていたような気がします。
たまには過去から学ぶことも必要かもしれませんね...
【『飲料水で調色を』】
映画『ティファニーで朝食を』の題を真似したかっただけのタイトルにしてしまいました。
ここでは普段皆さんが口にしている飲料水を使って調色を試してみようというわけで気軽に検証してみることにしました。危険な薬品を
使用せずに行える調色ですので、印画紙を容易に色付けしたいときの参考程度にしてもらえたらと思います。
モノクロ印画紙の調色っていろいろありますけど簡単に記述してみます。
調色には以下のタイプがあります。
1) 印画紙乳剤の銀を化学反応の金属置換によって調色する
2) 印画紙乳剤の銀をカラー染料でメッキすることで調色する
3) 印画紙ベース全体を染色することで調色する
モノクロ印画紙での調色というと1)による方法が主流だと思います。セピア調で馴染みのある硫化調色からセレン調色・銅調色・
多硫化調色・ブルートナー・金調色などいろいろあります。それぞれ色が異なっており、詳しくは書きませんが共通しているのは使用薬品の
毒性の高いものが多いということです。なかには署名をしないと手に入らない薬品を使ったりもします。
っで今回の調色は3)による方法で、これは調色というより染色に値するもので、色の付いた液体に漬け込んで印画紙全体の色を変えると
いうことをするわけです。大雨の時に革靴と白靴下で出歩くと、白靴下が革靴の色で染まってしまうような感じに近い染め方になるでしょうか。
この3)の方法で使われるものが、紅茶・コーヒーが良く知られています。他には赤ワインとか赤カブのようなビーツと呼ばれる野菜も
使うことがあるようで、なんならカレー粉や泥とかでもできそうな気がします。3)が1)2)と異なるのは、調色すると1)2)
は主に印画紙描画の中間部からシャドウ部の色変化があるに対して、3)は印画紙全体が色付くということになって印画紙全体がその色が
付いて暗くなります。ですので、暗室で印画紙を露光する時には予め露光時間を短縮して薄く仕上げた方が良いかと思います。
っとまぁ偉そうに書いていますが、私がやっているのは1)の調色だけで今回初めて3)の調色を行いますので、仕上がる濃さなどは
行き当りばったりなわけです。2回目なら何とか合わすこともできるでしょうけど、初回ということで出来の悪い調色になるだろうという言い訳
を最初に断っておきます。
っで今回飲料水ということで使用するのは下記の食材です。
「玄米茶」「アールグレイ紅茶」「モカコーヒー」「赤ワイン」です。
銘柄のあるのは別に意図は無くて、私の台所に常備している好みの茶であったりコーヒーだからです。ワインはよくわからないので一番安い
プラスチックボトルに入ったものを選びました。今回調色にあたり少しだけ参考にしたのが以下の書籍です。
・「Toning and Handcoloring PHOTOGRAPHS」 Tony Worobiec著 (約120頁)
この本には調色は各種調色からデュアルトーニング(調色を組み合わせて調色する)まで記述していて、手書き(水彩・
油彩・色鉛筆・エアブラシなど)によるハンドカラー処理による印画紙の彩色付けなども載っています。調合や作業工程などはあまり記述
されていないので技術的にはそれほど参考になりませんが、なによりサンプル写真をたくさん載せていて、各調色や各ハンドカラーでの
描写の違いがわかりやすく比較検討にするにはちょうど良い書籍だと思います。
では始めましょうか。
前提条件
・印画紙
普通に暗室作業でプリントした印画紙を用意します。私がバライタ紙しか使用しないので六切サイズ(8x10inch)バライタ印画紙を使いました。
レジンコート層のあるRC紙よりバライタ紙のほうが調色には合っているかと思います。
・暗室での露光時間
印画紙全体が染められて暗くなりますので、露光時間を短くして薄くしたものを使用したわけです。露光時間は基準露光時間の 0.79倍
(マイナス三分の一段補正)にしたものにしました。コーヒーや赤ワインの濃い色だともっと露光時間を短くするか濃度を下げた方が良いような
予感はしておりますが...さてどうなりますか。
・水温および調色時間
茶やコーヒーは熱湯で淹れるわけですが、調色する時には室温ぐらいまで冷ましました。また調色の漬け込む時間は15分に統一しました。
これらは上記書籍に記述していたために素直に従うようにしました(実際は35度以下で15分以上と記述されていた)。
・各飲料水の濃度
どれぐらいの濃さかわからないので全て通常淹れるぐらいの濃さで統一して傾向を見ることにしました。モカコーヒーはコーヒーメーカーで
淹れましたが、濃度を変えるならインスタントコーヒーの方が手っ取り早いでしょうね。赤ワインはそのままの原液を使いました。
作業工程
1. 溶液やバットの準備をします
バットは印画紙を濡らすものと調色用の2つ用意しておきます。
2. 印画紙は濡らして、溶液は濾過して準備します
印画紙は水の入ったバットに入れて濡らしておきます。飲料水は一応濾過をしましたが、玄米茶以外はしなくても良いような感じでした。
3. 印画紙を投入して15分間漬け込む
印画紙の水をきって飲料水の入っているバットに入れて15分攪拌します。今回テストなので適当な間隔でしか攪拌しませんでした。
4. 水洗
ほんの軽く水洗するだけにしてスクイーズして乾燥させます。
5. 終了
バライタ紙ですので乾燥後のフラットニングをすれば完成です。
結果
結果ですが赤ワイン以外は自分が当初予想していたよりも色が薄く仕上がってしまいました。着色の濃い薄いは個人の好みですが、この薄さで
あれば暗室での差引いた露光時間をもっと増やしておくべきだったという結果となりました。これら結果は飲料水の銘柄あるいは個人的な濃淡で
結果が変わってきますし、印画紙の銘柄(今回はADORAMAバライタ紙)でも変わってくるかと思います。
実際の印画紙状態をデジタル画像で伝えるのは難しいですが、それぞれの飲料水での結果は以下のような感じになりました。
玄米茶 |
---|
かなり薄い ・この印画紙濃度(0.79倍)なら、3~4倍ぐらいの濃い玄米茶が必要 ・この着色濃度なら、基準露光時間(1.0倍)ぐらいでよかった |
アールグレイ紅茶 |
薄い ・この印画紙濃度(0.79倍)でなら、2倍ぐらいの濃い紅茶が必要 ・この着色濃度なら、露光時間は 0.87倍(マイナス五分の一段補正)ぐらいでよかった |
モカコーヒー |
薄い ・この印画紙濃度(0.79倍)なら、2倍ぐらいの濃いコーヒーが必要 ・この着色濃度なら、露光時間は 0.87倍(マイナス五分の一段補正)ぐらいでよかった |
赤ワイン |
適正 ・人によっては色が濃すぎると感じるかも |
今回の調色作業中に薄いのはわかっていたのですが、あえて前提条件を守ることにしました。薄い時には飲料水の
濃度を上げるという方法もありますし、漬け込む時間を長くすることである程度は濃度を上げられるかと思います。今回初回でしたので次に
行うときの目安にはなりました(負け惜しみだけど)。
個人的には、茶やコーヒーの色が薄いということを除いても赤ワインで調色されたものが魅力的に感じます。それは茶やコーヒーの色合いが
いわゆるセピア調に近い色合いに対して、赤ワインの真紅色が新鮮な感じがしてまた深みのある色合いであるためでしょうか。
今回これら調色によってハイライト側の表現域が着色により狭められるために、この調色に合う写真というのはある程度限定されてしまう
ような所もあるように感じます。この調色に合う写真があったり飲料水調色に興味が少しでもあれば、ぜひ試したり改善したりして楽しんで
みてください。他にも色の付いた飲料水などはたくさんありますし、水彩絵具とかを使っても良いんじゃないでしょうか。
手間も掛からない安全な調色を、気軽に試してみませんか?
私は今回の失敗で学ぶことができたので、次回はもう少しまともな結果を得られそうです。
基準露光時間(1.0倍) | 露光時間(0.79倍) |
---|---|
玄米茶(露光時間0.79倍) | アールグレイ紅茶(露光時間0.79倍) |
モカコーヒー(露光時間0.79倍) | 赤ワイン(露光時間0.79倍) |