フィルム現像での薬品調合処方について
♪ Love Is A Stranger (by Eurythmics)
--- カレーを作るときに、カレールーを使う? それともスパイス調合の本格派?
フィルム現像やプリント処理では、たくさんの種類の液類を扱うことになります。
一覧を示しますと、
モノクロフィルム現像処理 | 現像液/停止液/定着液/(水洗促進剤)/(水切り剤) |
カラーフィルム現像処理 | 発色現像液/漂白液/定着液/(安定剤)/(水切り剤) |
モノクロプリント処理 | 現像液/停止液/定着液/(水洗促進剤)/(調色液) |
カラープリント処理 | 発色現像液/漂白定着液/(安定剤) |
たくさんありますが、もし市販薬を使用せずに自家調合を始めようとしているのであれば、市販薬に置き換える理由がある
場合に試行錯誤して各種データを求めてから始めるのが良いかと思われます。今、使ってられる市販薬に不満が無ければそのまま使用し続ける方が
なによりも良いことだと思います。
じゃ市販薬に置き換える理由って何でしょうか? そうなんです、主に描写なんですよね。
「市販の現像液を使ってるんだけど硬調すぎて気に入らない」とか「特殊なフィルムで市販薬では上手く処理できない」とか
問題が出てきた時に、自家調合を考えても良いんじゃないでしょうか。
まず前提として、自家調合は単薬を組み合わせるから価格が安くできるとかは考えない方が良いと思います。数年前なら確かに
単薬は安かったのですが、今では単薬は数倍ほど高くなっているものもありますので価格面では優位性は無いと思っていただいたほうが
いいです。
これら液類の中で自家調合して効果があるのは、描写が変わるフィルム現像液・印画紙現像液だと思われます。もちろん定着液などを
理由があって自家調合する場合もありますが、ここでは現像液を主として記述していきます。
ただカラーのフィルムやプリントでの自家調合は、主要な単薬が入手しづらいのであまりお勧めはしませんし、ここでは記述いたしません。
市販のカラーフィルム現像キットやカラー印画紙の発色現像液/漂白定着液をご使用くださいませ。
では自家調合のメリットは、
・きちんとデータを取れば想いの描写を得ることができる
・溶液量は多くも少なくとも好きなように合わせることができる
があり一方デメリットしては、
・特殊な薬品は入手に困難する
・フィルムあるいは印画紙との相性を事前テストを行う必要がある
があることをご理解ください。
ここで記述の処方(ほんの少ししか書いてないけど)は、比較的単薬が入手容易な処方のみです。自家調合を始められるのであれば自分に
合った容易な処方から徐々に変化させていくのが良いのではないでしょうか。
では調合が必要であればゆっくり始めるとしましょうか...
【自家調合に使う用品】
それほど多くの用品はいりません。計量して混ぜるだけですので...
・計量器
普通に使うのならホームセンターなどで売っているキッチンスケールで事足りるかと思います。その際に、最小単位が1.0グラム
刻みではなく0.1グラム刻みになっているものを選択する方が良いです。
稀に調合の種類により0.01グラム単位での計量が必要になるかもしれません。
計量器の数値をゼロリセットするときは、下記の計量紙を載せてからリセットするようにしてくださいね。
・サジと計量紙
サジは何でもいいです、100円均一ショップのスプーンでいいです。計量紙もなんでもよく私はろ紙を使っていますが、紙コップとか
の方がこぼれないし良いと思う。(紙コップは飲食用に再利用しちゃ駄目ですよ)
・メスカップ/貯蔵用ポリビン/攪拌棒/(水温計)
これらはフィルム現像などで使用しているものをそのまま使えばいいので、新たに購入する必要はありません。
メスカップはフィルム現像液を作るときにはフィルム現像液のメスカップを使用してください。
水温計はそれほどシビアに考えなくてもいいので私は使用しませんが、必要であれば用意してください。
【薬品調合処方の例】
あくまで調合の例として、ほんの少しだけ紹介します。
フィルム現像液1つとっても数え切れないほどたくさんあり、それらはインターネット上でも色々な処方が紹介されていますから
それを参考にされるのも良いですし、書籍であれば下記2つのものは調合に関して定番だと思われます。
(また他の暗室全般に関することなら洋書で探すと内容の充実した良い本がたくさんありますよ! それら書籍の豊富さで欧米での
裾野の広さを否が応でも感じてしまいます)
1。暗室百科(写真工業出版社)[日本語]
2。THE DARKROOM COOKBOOK Second Edition(Stephen G.Anchell)[英語]
2の方が豊富に記載されています。(書籍のページでも紹介しています)
調合時には薬品を溶かすために温度の高い水(お湯)で溶かしますが、温度に関してはそれほどシビアにする必要はないです。
また薬品は多かれ少なかれ毒性があるものが多いですので、お子様などの手の届かないところで保管して取り扱い
くださいませ。
●モノクロフィルム現像液
フィルム現像液では、コントラストを変化させる・フィルムの粒子の大きさを変化させる・フィルムの感度を変化させるなどの
効果のために自家調合されることになるかと思います。ここでは標準現像液の他、軟調な現像液を少し紹介します。
・D76現像液
一番有名な標準フィルム現像液です。微粒子現像液なのですが、普通の現像液は微粒子現像液なので標準となります。(特に微粒子な
現像液は超微粒子現像液と呼ばれています)
どのようなフィルムでもD76処方の現像時間がフィルムパッケージに記載されているぐらい定番中の定番の現像液です。
私も最初の頃はこの処方でずっとフィルム現像しておりました。今でもたまに使用していますよ。
1 | 水(50度) | 750ml |
2 | メトール | 2g |
3 | 無水亜硫酸ナトリウム | 100g |
4 | ハイドロキノン | 5g |
5 | ホウ砂 | 2g |
6 | 水を加えて | 1000ml |
・D23現像液
D76処方に比べて軟調な仕上がりになる標準現像液です。感度がでないので増感処理には適していません。2種類の単薬だけなので
お手軽ですね。
1 | 水(50度) | 750ml |
2 | メトール | 7.5g |
3 | 無水亜硫酸ナトリウム | 100g |
4 | 水を加えて | 1000ml |
・POTA現像液
超軟調現像液です。コピーフィルムやリスフィルムなどのハイコントラストのフィルムに使用されます。感度がでませんので、テスト撮影
では低いフィルム感度設定にして色々試してみてください。
超軟調な仕上がりになりますので、一般のモノクロフィルムで使用すると、デジタルカメラで強いHDR処理をしたような独特の
雰囲気になります。
この現像液はまったく日持ちしませんので、作ったらすぐに現像して廃棄するようにします。
追記。フェニドンが手に入りにくくなっていますのでご注意ください。
1 | 水(85度) | 750ml |
2 | フェニドン | 1.5g |
3 | 無水亜硫酸ナトリウム | 30g |
4 | 水を加えて | 1000ml |
・DD23(Anchell DD23)現像液
D23処方より少し軟調な仕上がりになる標準現像液です。いくつか処方があるのですが、ここではAnchellのDD23処方で記述しています。
これは前述の現像液と違い2浴現像液になっており、A液の現像をした後にB液の現像を続けて行うものです。
ほとんど同じ調合処方に、この処方より有名なシュテックラー2浴現像液があります。
A液 | ||
---|---|---|
1 | 水(50度) | 750ml |
2 | メトール | 5g |
3 | 無水亜硫酸ナトリウム | 100g |
4 | 水を加えて | 1000ml |
B液 | ||
1 | 冷水 | 500ml |
2 | ホウ砂 | 18g |
追記。
Anchell DD23処方のB液は、Anchellの本ではホウ砂18gに対して計500mlの処方分量になっていますが、1000mlの間違いかも?っと少し思っています。
1000mlあたりホウ砂36gにすると日が経つと結晶のような塊が少しできてしまうと思うのですが...どうなんだろう。(私はホウ砂を少なくしています)
●モノクロ印画紙現像液
ここはフィルム現像の項ですが、ついでにプリント時の印画紙の現像液処方を記述します。
印画紙現像液では、コントラストを変化させる・色合い(冷黒調~温黒調)を変化させるなどの効果のために自家調合されることに
なるかと思います。印画紙現像液の処方もフィルム現像液ほどではないけれどもたくさんの処方があります。
ただ、色合い(冷黒調~温黒調)を変化させる処方は印画紙との相性が大きく関わってきますので、事前テストで効果を確かめるようにしてください。
ここでは標準現像液と軟調現像液を紹介します。共に現像時間は90秒~180秒ですので、市販現像液と変わらないかと思います。
・D72現像液
一番有名な標準印画紙現像液です。使用時には、この現像液と水を1+2の割合で薄めて使用します。(下記原液だと計3000mlの現像液になる)
1 | 水(50度) | 750ml |
2 | メトール | 3g |
3 | 無水亜硫酸ナトリウム | 45g |
4 | ハイドロキノン | 12g |
5 | 1水塩炭酸ナトリウム | 80g |
6 | 臭化カリウム | 2g |
7 | 水を加えて | 1000ml |
・アンスコ120(A-120)現像液
軟調現像液です。使用時には、この現像液と水を1+2の割合で薄めて使用します。(下記原液だと計3000mlの現像液になる)
私は昔、号数印画紙を使用していたときにこの処方で現像した後にD72処方で現像する2浴現像をよく行っておりました。
1 | 水(50度) | 750ml |
2 | メトール | 12.3g |
3 | 無水亜硫酸ナトリウム | 36g |
4 | 1水塩炭酸ナトリウム | 36g |
5 | 臭化カリウム | 1.8g |
6 | 水を加えて | 1000ml |
色合い(冷黒調~温黒調)を変化させる印画紙現像処方もありますが、温黒調印画紙も冷黒調印画紙も販売されておりますので、
まずはそちらを使用した上で自家調合すべきかどうかを考えても良いかと思われます。
【ウナギのタレ式とは】
フィルム現像液を作成して処理可能本数近くまで使用するかと思いますが、新液最初の1本目と最後の1本って描写が違っている
気がしませんか? まぁ現像液が段々と疲労してますから仕方が無いといえばそうなんでしょうけど、それが嫌で現像本数ごとに
現像時間を延ばしている人も居るんじゃないでしょうか。
希釈現像して現像液を使い捨てという方法をする人もいますし、私のように「ウナギのタレ式」で永続的にダラダラとしつこく使う人も
居るわけで、人ってそれぞれだと感慨深く思います。
っで「ウナギのタレ式」ですが、簡単に言うと現像処理した後に補充液を加えるというのを繰り返すだけなんです。
少量づつ補充液を継ぎ足しすることによって現像能力が平滑化されて、いつも同じ調子で現像することができるようになります。
例えば上記の標準フィルム現像液であるD76現像液ですが、
D76現像液の補充液であるD76R | ||
---|---|---|
1 | 水(50度) | 750ml |
2 | メトール | 3g |
3 | 無水亜硫酸ナトリウム | 100g |
4 | ハイドロキノン | 7.5g |
5 | ホウ砂 | 20g |
6 | 水を加えて | 1000ml |
の補充液を作って、35mmフィルムや120フィルムの1本毎に30mlを追加するわけです。
手順的には、
1。現像する。ただし貯蔵ボトルにはまだ格納しない。
2。現像液の貯蔵ボトルに補充液を[フィルム本数x30ml]の量でを投入します。
3。1の現像後の液も貯蔵ボトルに投入しますが余りの分は廃棄します。
4。次回現像時も同じように1から行う。
というのを繰り返し...繰り返し...続けるだけです。
別にD76処方でなくても同じように補充液を作って試してみてください。(補充液の方が少し濃い目の処方になるかと思いますが)
私はDD23処方で同じように「ウナギのタレ式」で現像液はそれで長年使い続けております。私のようにずっと使い続けるという方法も
ありますし、補充液が終わればまた新液から作り直すという方法もあります。これら使用法や補充液処方などは自分で試行錯誤して
楽しみながらやってみてください。
「ウナギのタレ式」で長年使用される場合には、年に1回ぐらいは下図のように液を濾過してやる方が良いでしょうね。
【溶液の保存方法】
市販薬でも自家調合薬でも、薬品類はなるべく劣化を少なく保存することが大事だと思います。特に私の場合は、ウナギのタレ式で
永続的に使用するものですから使用していないときに劣化が進むことは問題になります。
そこで劣化をさせないためには、下記のようなことをしています。
・貯蔵用ポリビンは注ぎ口一杯まで溶液を入れるようにする。
・少量あるいは容量が変動する溶液に関しては、スパウトパウチ容器で空気を入れないように貯蔵する。
・光の当たらない冷暗所に置く。
これだけで劣化するスピードが飛躍的に遅くなります。
一度試してみると解りやすいのですが、例えば容器に入った市販現像溶液を半分だけ使用してそのまま蓋をして保存しますと、
日が経つにつれ現像液が茶色く劣化していき最終的には使えなくなります。そうではなく、その残った半分をスパウトパウチ容器に
入れ替えて保存するとあまり劣化せずに次回に使用することができるようになります。
そう、とにかく空気に触れさせない状況で冷暗所に保管すれば、劣化はあまり気にしないで良いようになります。
それでも気になるのであれば、さらにそれを冷蔵庫で保管するという手もありますが、食品と同じところに入れるのは気分的にどうも
...他の人が間違って...とかがありますので、あまりお勧めいたしません。(私もしておりません)
(私が使用している貯蔵容器については、Diary(2020.12.15)に記述しております)